2014.04.12

文字盤についての作文

藤澤義之さんのお宅に入っている訪問看護師さんのお子さんが書かれた作文をご紹介します。
透明文字盤を練習する看護師さんと、その様子を見守るお子さんの様子がよく伝わってきます。こうした支援者が患者さんのまわりに増えるように、ICT救助隊も活動を続けていきます。

 

あたたかい言葉

六年三組 ◯◯

「行って来ます。」
と看護師の母は言い、訪問先へ向かって行った。私と妹は、ついさきほどまで、文字盤の練習をさせられていた。文字盤とは、とうめいな板に、あいうえお順にひらがなが並んでいるものだ。

私と妹がこんな練習をさせられていたのには、わけがあった。

一週間前のことである。訪問先が決まり、母が帰ってきたときから、その練習は始まった。母の訪問先の人は、筋肉が使えなくなり少しずつ動けなくなる病気をもっている人だった。その人が会話ができるように作られたのが文字盤だ。患者さんは目だけは動かせるので、その文字盤の、自分が言いたい文字を見て、会話をするのだった。母は、文字盤を使うのが初めてだったので、なかなか上手にできなかったという。だから家で、私と妹を相手に練習することになってしまったというわけだ。

初日は、私が見ているものとはちがう文字を私が見ていると思ってしまったり、なかなか二文字目に進まなかったりして、私が見ても母はグタグタだった。私自身は、この練習をするのは自分が患者さんになったようであまり乗り気ではなかったけれど、母がこんなにがんばっているのだから、私も母をサポートして、母が上手にできるようになるまで見守ろうと心に決めた。

この日から何日も何日も文字盤の練習をした。母は確実に、少しずつ上手になっていった。

そんなある日。訪問先から帰ってきた母がなにげなく、こう言った。
「患者さんが、『◯◯さん、うまいです。』ってほめてくださった。」
と。この言葉を聞いて、私は心があたたかくなっていた。だって、どんなにかざった言葉よりも、心がこめられていると感じたから。

この日から、私と妹は練習から解放された。母は、文字盤を使う技術は身についたから、これからは、心をこめて患者さんに向かうことを大事にしていこうとしているのだと思う。
『◯◯さん、うまいです。』
この言葉が、母をどれだけ力づけたことか。かざらない言葉が人の心をあたたかくする。こんな気持ちを今度は患者さんにも感じてほしいという思いで、母は患者さんを支えていこうとしているのだろう。

母は、患者さんを思う気持ちとたくさんの努力で、患者さんを支えている。そんな母を目標にして、私は母や家族、友だちを支えていきたい。

文字盤の練習や患者さんのあたたかい言葉を通して、私も自分にしかできない支え方で人にかかわっていこうと決心した。

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